さて、いよいよ西夏倉頡を学んでいく準備が整ったわけですが、ここで一つ重要なことがあります。
順番に、すべての例を、西夏倉頡で必ず手入力してください。
そもそも、西夏文字という比較的なじみのない文字の入力方法を学んでいくわけです。ゆったりと着実に学んで行かない限り、絶対に身につきません。小学校時代に漢字ドリルを反復練習させられた方も多いと思いますが、あの経験があるからこそ、パソコンやスマホで文字を打つことの方が多くなった今でも手書きでメモを取ろうと思えば取れるのです。いま西夏倉頡という全く新しい手法を学ぶのですから、流し読みして満足するのではなく、すべての例を自分で打つことによって、なんならキーボードをいちいち見なくても「横画はここだな」と正しい位置に指が動くようになれば理想的です。
……とまあ偉そうなことを書いていますが、ご安心ください。この文章を書いている2022年3月23日現在では、そもそも筆者自身が西夏倉頡に慣れ親しんでいないのですから。「はじめに」にも書いたとおり、この文章を執筆しているのは、執筆して人に説明することで私自身が上達するために書いているのです。つまりこれを読んでいる皆さまは、私の学習を追体験していっているようなものなのです。
さて、というわけで 1 つのページで複数回練習することをお薦めします。それぞれの西夏文字の左には、打つべきキーシーケンスが表示されているので、まずはそれをチラ見しながら入力していって、慣れてきたら ボタンを押し、どう打つべきかの指示を見ずに例示されている字を入力できるかをご確認ください。それができるまでは、次のページに進まず、練習を繰り返してください。
なお、この練習方法は、このチュートリアルの原案である青蛙亭漢語塾の「倉頡チュートリアル」に基づいたものです。私自身、倉頡を初めて知ってから、十年間ぐらい「やってみたいな~~」と思いつつなにもやってきていませんでしたが、このチュートリアルをこなしたことで、最後の方になるとゆっくりながらも着実に入力できるようになっていきました。というわけで、再度になりますが、
順番に、すべての例を、西夏倉頡で必ず手入力してください。
西夏文字は、漢字と比べて画数が多い印象があると思います。実際、画数別の棒グラフを見てみると、三画未満の字は皆無で、四画もごく少数ということが分かります。
その数少ない四画の字が𗢨。意味は「人」、発音は「ズュオ↓ (dzjwo²)」といった感じであったのではないかと推定されています[1]。この部品を打つのに使うキーが A です[2]。ということで、A だけで入力できる以下の四字を練習してみましょう。
キーシーケンス | 字 | 入力練習 | 推定音 | 意味 |
---|---|---|---|---|
A | 𗢨 | 「ズュオ↓ (dzjwo²)」 | 「人」 | |
AA | 𗢺 | 「リr↓ (rjir²)」 | 「以前、かつて」 | |
AA | 𗫴 | 「ミャ↑ (mja¹)」 | 「果実」 | |
AA | 𗬎 | 「ショウ↑ (śjow¹)」 | 「悪党」 |
L は、主に縦棒を入力するのに使います。小文字 l の形から連想すると覚えやすいでしょう[3]。
キーシーケンス | 字 | 入力練習 | 推定音 | 意味 |
---|---|---|---|---|
ALA | 𗣞 | 「ツォァr↑ (tswər¹)」 | 「家畜の乳を搾る」 | |
ALA | 𗬏 | 「リュr↓ (rjɨr²)」 | 「第三」 | |
ALLA | 𗤍 | 「ビィ↓ (bjij²)」 | 「怒り」 | |
LLA | 𗄪 | 「ヌ↑ (nu¹)」 | 「背く」 | |
LLAL | 𗄱 | 「ピィ↑ (pjij¹)」 | 「深緑」 |
なお、西夏倉頡では、𘢌𘢍𘢏だけではなく、下の部分が「メ」になっていない𘢋も A キーで打ちます。この部品は必ず L を伴って𘤅の形で現れるそうです[4]。
キーシーケンス | 字 | 入力練習 | 推定音 | 意味 |
---|---|---|---|---|
AL | 𗼃 | 「シュイ↓ (śjɨj²)」 | 「哲人」 | |
ALA | 𗼈 | 「ニャッ↑ (njạ¹)」[5] | 「神」 |
M は、横棒を入力するのに使います。「アルファベット順において L の次の文字だから、縦棒の次は横棒」、と覚えておくとよいでしょう[6]。
キーシーケンス | 字 | 入力練習 | 推定音 | 意味 |
---|---|---|---|---|
AMA | 𗣕 | 「ウィッ↑ (wjị¹)」 | 「人」 | |
MAA | 𗸦 | 「ジウ↑ (dźjwu¹)」 | 「人」 | |
MAL | 𘈩 | 「レウ↑ (lew¹)」 | 「一」 | |
AMAL | 𗤆 | 「リュ↓ (ljɨ²)」 | (姓の一つ) |
再度になりますが、流し読みするのではなく、
順番に、すべての例を、西夏倉頡で必ず手入力してください。
すべて入力したら、 ボタンを押して、もう一度どうぞ。
[1] 便宜上、再構音は龔煌城のものを使うことにします。Polyhedron 氏がブログで「我傾向於西夏語的平聲爲高調而上聲爲低調。」と書いているので、平声と上声はそれぞれ「↑」と「↓」で一応書いておくことにしておきます。西夏語の歴史言語学は全然勉強できてないので、頑張らねば……
[2] 本家の倉頡を知っている人のための補足。西夏倉頡は本家倉頡となるべく似るようにキー割り当てを選んでいますが、本家で A に対応する「日」に相当する部品は西夏文字では一切出てこないので、頻用部品である𗢨(意味「人」、発音「ズュオ↓ (dzjwo²)」)が割り当てられているわけです。
[3] 本家倉頡でも L キーは縦棒部品の入力に用います。
[4] 西夏倉頡を提唱した河崎啓剛の論文にそう書いてありました。
[5] 龔煌城の論文のアブストラクトに the tense vowels, which are always short と書いてあるので、とりあえず短く読んでもらえるよう、下ドット付きで書いてあるやつについては末尾に「ッ」を付けて転写してみることにしました。別に語末に声門閉鎖とかがあったと再構されているわけでもないのでしょうし、微妙ですが、まあ暇とやる気のあるときにもうちょい私が先行研究を読み込んで、どうするか考えようと思います。
[6] 本家倉頡でも M キーは「一」の入力用です。